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『魔王』伊坂幸太郎

カテゴリ : 読書感想文
東京大学の書店に行ったときに、オススメ的な感じで置いてあって、気になったので読んでみました。

魔王
魔王

非常に読みやすく、内容的にもそれなりに実のなる感じでよかったです。
主人公がある日、「他人に自分が思っていることを言わせることができる」能力に気づく。

課長の理不尽な責任転嫁におどおど対応している気弱な社員に、「偉そうにしてんじゃねえぞ!」と言わせたりする。

主人公はその能力でなにかできやしないかと思う。
ロックバンドのコンサートに行って、ヴォーカルのMCに拳を上げ、叫び声を上げる大勢のファンを見て、一人を操ることによって、大衆を動かすことができるかもしれないと気づく。

犬養という国会議員がいて、いいたい事をはっきりいう、思想がブレない、国民にわかりやすい、カリスマ性のある、次期首相候補なのだが、
犬養はアメリカ批判をする。
その直後、アメリカで日本のサッカー選手が刺されるという事件が発生する。
それに反発して、日本各地で、アメリカのファーストフード店に石が投げ込まれたり、アメリカ人の家が燃やされたり、という事件が多発する。
主人公はこのままではまずいぞと思う。このムードが日本を間違った方向に進ませるのではないか。まるでファシズムだ。

犬養の演説会場で主人公は能力を発揮しようとする。
「私を信じるな!」
しかし、聴衆は拳をあげて興奮しただけだった。
主人公はなおも続けようとしたが、能力を使いすぎたのが原因か、力が抜け倒れこんでしまう、、

私がこの作品を読んで感じたのは、主人公は最後まで、自分の力で世界を変えようとはしなかったということだ。他人を操る能力を身につけた主人公は、他人の力を借りてでしか、世界を変えようとはしない。自分自身の力で世界を変えようとは思わない。

犬養は「自分で考えろ!」という。犬養は国を変えるためにいろいろな発言をする。しかし最後は、国民に対して、自分で考えて自分で判断しろ、と釘を刺す。
メディアに影響されて流されやすい愚かな大衆に対するアンチテーゼを感じる。

犬養は宮沢賢治の詩を引用する。若者を鼓舞するような、強烈な、メッセージ。

新たな詩人よ
嵐から雲から光から新たな透明なエネルギーを得て
人と地球にとるべき形を暗示せよ

新たな時代のマルクスよ
これらの盲目な衝動から動く世界を
素晴しく美しい構成に変へよ

諸君はこの颯爽たる
諸君の未来圏から吹いて来る
透明な清潔な風を感じないのか


この「魔王」の次に、「呼吸」という作品が収録されているのですが、こっちは「魔王」の主人公の弟の話。
弟がもっている能力は「じゃんけんで絶対に勝つ能力」。
しかし、この能力を突き詰めていくと、「10分の1までの確率なら絶対に当てる」という能力だった。

弟は競馬の10頭までのレースで、単勝で賭ければ絶対に当てる。
弟は大金を手に入れることができる。そして、「金は力だ」。
「魔王」は実は弟の方だったのだ。

まあ、この作品には現実で起こっている政治の話がいろいろでてきて、非常に示唆に富んでいる。考えさせられる。その点が、東大の書店でオススメなのかしらと思います。

最後はストーリーとはあまり関係のないところで印象的だったところ。

「人が殺人を行う場合の心理について書かれた本」
「基本的に人間は、殺人には抵抗感がある。動物全般がそう。動物は同種類の相手はできるだけ殺さないようにする。」
「でも、戦争では、人は人を殺す」
「殺人を実行するにはいくつかの要因がある。戦場から帰ってきた兵士に『なぜ人を撃ったのか』と質問をしたとき、一番多かった答えは」
「殺されないために?」
「違いました。その本によれば、『命令されたから』。命令を与えられれば、それがどんなに心苦しいことであっても、最終的には実行する」
「他の要因は?」
「『集団であること』。集団は罪の意識を軽くするし、それから、各々が監視し、牽制しあうから。命令の実行を、サポートする。」

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[T3] 伊坂幸太郎の世界にあったテーマなのか……:魔王

魔王作者: 伊坂 幸太郎出版社/メーカー: 講談社発売日: 2005/10/20メディア: 単行本 伊坂幸太郎がファシズムに立ち向かう兄弟の話を描く本書。 伊坂幸太郎の持ち味、世界観は健在だが、本書のテーマがぴったりであったかどうかは疑問が残る。
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